近年の急速な技術の進歩により、AIに出来ないことはないと思われるほど万能なイメージがついているAIだが、苦手とされている分野が幾つかある。その一つが創造性を伴う作業だ。創造性とは、実用日本語表現辞典によると『何かの真似ではない、独自の有用な案を生み出すこと。』と定義されている。具体的な例を挙げると、絵画や小説、作曲など芸術的な分野のものが多い。
なぜ苦手なのか、それは、AIが膨大なデータを取り込み学習することで答えを導きだしているからだ。要するにゼロからイチを作り上げていくような作業が苦手なのだ。

では、AIには今後も創造性を伴う作業は出来ないのだろうか。
実は、小説の分野においてそうじゃなくなるかもしれない話がある。
今回はそんなAIが書く小説をご紹介したい。

AIの公募を認めている『星新一賞』

星新一という作家をご存じだろうか?
小説好きの方であるならば少なくとも聞いたことはあるだろう。日本を代表するSF作家であり、ショートショートと呼ばれる短編小説なかでもかなり短いジャンルの小説を1000作以上発表している、「ショートショート(掌編小説)の神様」とも呼ばれる人物だ。

そんな星新一氏の名前を冠した、『星新一賞』という小説の賞がある。
『理系的発想からはじまる文学賞』とうたう同賞の応募規定には、思わず「えっ?」と声をあげてしまいそうになる一文が記載されている。
“人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます。ただしその場合は、連絡可能な保護者、もしくは代理人を立ててください。
審査の過程において、人工知能をどのように創作に用いたのかを説明して頂く場合があります。”

SF作家として名をはせた星新一氏に掛けた面白い規定だと思うが、まさかこの規定を実際に使用することになるとは、賞が出来た当時誰も考えていなかったことだろう。

AIが書いた小説が一次審査を突破する

前述した規定が使用されたのは『第三回星新一賞』のこと。なんと、AIが書いた小説が最終審査を含めて四段階ある審査の第一関門を突破したのだ。

四段階ある審査の高々一つを突破しただけじゃないかと思う方もいるかもしれない。実際に当時もこの件はニュースで話題になったが、少なくない数の人々が同様に考えていたそうだ。
ただ、よく考えてみてほしい。同賞では一次審査を突破した作品数を公表していないが、一次突破作品数を公表している小説賞などを調べると、多くても3割、低いと1割を下回る程度しか次の審査へ進むことが出来ていない。そんな、人間でも一次審査を突破するのが容易ではない中で、応募総数、約1450作品の中から一次とはいえ突破したのだ。ある意味では創作の分野でもAIが人を凌駕する可能性を秘めているという何よりの証拠になるのではないだろうか。

気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ

このAIを作成したのは、公立はこだて未来大学の松原仁教授を中心にしたプロジェクトチーム「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」だ。同プロジェクトは2012年9月にスタートし、星新一のショートショート全編を分析し、エッセイなどに書かれたアイデア発想法を参考にして、人工知能におもしろいショートショートを創作させることを目指して鋭意活動している。

同プロジェクトのHPでは、前述した星新一賞で一次審査を突破した作品を読むことができる。
興味のある方は是非一度読んでいただきたい。
コンピューターが小説を書く日

筆者は自他ともに認める読書好きであり、実際に一次審査を突破した作品である『コンピュータが小説を書く日』読んでみた。
確かにプロの作家と比べてしまうと作品としての出来は劣るかもしれないが、ただ文章を羅列しただけではなく、きちんと小説になっていると感じられた。

ストーリーを作れないAI

ただ、この小説は全てAIが作り上げたわけではない。一次選考を突破した『コンピュータが小説を書く日』ではプロットと呼ばれる大まかな物語の流れを人間が作成し、AIがそれに基づいて言葉を当て込む形で文章を生成し、小説を作り上げている。

プロジェクトのリーダーである松原教授は以下のインタビュー記事にて次のように語っている。

“小説を書くAIを実現するには、大きく分けて2つの機能を持たせる必要があります。それは、『ストーリーを考える機能』と『文章を書く機能』です。一次審査を通過したAIでは、前者の作業を人間によって行っていました。つまり、本当の意味ではまだまだ小説を書けるようになったとは言えないわけです”
引用元:松原仁教授、質問です。小説を書くAIは、人間を超えられるのでしょうか?

松原教授が話していた通り、この時点では、AIは文章を作成することができても小説を作るうえで大前提となるストーリーを作り上げることが出来ていなかったのだ。

AIが小説を作る上での課題

AIが小説を作るにはまだ多くの課題が残されている。

評価の問題

ここまでで書いてきた通り、AIは、ある程度意味の通った文章を作成することが出来るようになっている。しかし、小説においてはただ意味が通っているだけでは不十分であり、その文章が、小説が面白いかどうかが重要になってくる。残念ながら現状では、AI自身でこれが面白いのか、面白くないのかの判断を下すことはできていない。

意思の問題

AIがストーリーから、構成、文章を全てゼロから作り上げるためには人間と同じように意思を持つ必要が出てくる。それは小説に限らず何か創作をする際、人であれば何であれそこには必ず動機があるからだ。AIは意思を持っていない為、100%全てを作り上げることが今の技術では不可能なのだ。

著作権の問題

AIに創作の機能を持たせるためには膨大なデータ、労力、コストが必要になるが、今現在、日本においてAIによる創作に著作権などの権利は認められていない。このことが間接的に研究や発展の妨げになる可能性があるのだ。

おわりに

AIだけで小説を書くことは、もっと革新的な技術の進歩がなければ難しいかもしれない。
だが、全くあり得ないと断言することも出来ないのではないだろうか。実際、作家ですのよでは、『第四回星新一賞』にAI同士で人狼ゲームを行わせ、その試合結果のログを基に小説を作成し応募したと発表している。AIには作れないとされていたストーリーを作らせようと試行錯誤を繰り返している最中なのだ。
勿論、課題も多く、一朝一夕にでき上げるようなものではないが、筆者はAIが書いた小説を読んで、少々大げさかもしれないが、AIが創作をするという可能性の萌芽を見た気がした。
いずれ、書店の棚に人の書いた小説と並んでAIが書いた小説が置かれる。そんな未来がいずれ来るのかもしれない。
そんな風に思わせる可能性がAIには秘められている。