早くも2021年の4分の1が終わり、季節は春を迎えた。春と言えば、花見や、入学式、卒業式。企業で言えば、年度替わりの忙しい時期と様々なイベントごとが多い時期ではないだろうか。そんな中、筆者的に楽しみなことがある。それがプロ野球の開幕だ。
意外に思われるかもしれないが、実は、野球を含めスポーツの分野とITは親和性が高い。近年では、プロの選手たちはデータを分析することで、効率的なトレーニングを行えるようになっているし、チーム単位では様々なデータを収集し分析することにより、目に見えにくい部分も含め選手たちの評価をするように変わっている。
ただ、これらはあくまでもチームや選手たちの間で使われているもので、筆者を含め観客である私たちにとってそこまで馴染みのあるものではないだろう。だが、データ分析に強いAIの進歩によって、その状況は変わりつつあるのだ。
プロ野球をデータで分析するセイバーメトリクス
さて、本題に入る前に少しだけ、プロ野球とデータとの付き合いについて書いていこう。
『セイバーメトリクス』という言葉を聞いたことがないだろうか。野球好きの人であれば一度ぐらいは耳にしたことがあるかもしれない。
セイバーメトリクスは、データを統計的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法のことで、野球ライターで野球統計の専門家でもあったビル・ジェームズによって1970年代に提唱された。驚くべきことに野球の本場であるアメリカでは今から半世紀も前からデータを用いて野球をしようと試みていたのだ。
しかし、実際にサイバーメトリクスの名が広まるようになったのは、提唱されてから30年ほど後の2000年代になる。
人間がプレーする野球を全てデータで分析できるわけがない。
突き詰めれば、そういう話になる。要は、人がプレーしている以上、全てを分析できるわけではないから、正確な分析をすることができないのではないか。そういった疑念から批判的な意見の方が多かったのだ。
他にもこのセイバーメトリクスを提唱したビル・ジェームズが本格的に野球をやったことがなかったこと、バント・盗塁など、野球の伝統的な戦術の効力を否定してしまうものであったこともあり、今現在でもこのセイバーメトリクス対して快く思っていない人も一定数いる。筆者としてもこう考える人たちの気持ちについて分かる部分もあるので、上手く尊重しあえる、少なくとも批判しないような落としどころが見つかって欲しいと切に願う。
セイバーメトリクスを一躍有名にした「マネーボール」
前述したように当初は全く受け入れられなかったセイバーメトリクスを一躍有名にしたのが、アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンだ。彼は2000年代に資金力もヤンキースなど有名球団と比べると圧倒的になく、弱小球団と呼ばれるぐらいだったアスレチックスを、セイバーメトリクスを重視したチーム編成によって優勝を決めるプレーオフに進出できるほどのチームに作り替えたのだ。
この改革はアメリカ中の話題となり、この話を基に映画「マネーボール」が発表されヒットしたことで一気にセイバーメトリクスは世界中で知られることになったのだ。
余談になるが、映画自体が面白いので、興味があればぜひ見て欲しい。
日本でのセイバーメトリクス
日本では日本ハムファイターズと千葉ロッテマリーンズなどがセイバーメトリクスを導入しようとしているものの、批判的な意見が根強くあることもあり、残念ながら全体的にまだまだ定着をし切れていない。だが、今後データを使って選手を評価しようという動きは多くなってくるとみられる。
AIが野球をリアルタイムで予測する
さて、ここまでで野球とデータが密接に関わってきたことが伺えるだろう。
ここからは、そのデータを別のことに利用して観衆である私たちに新たな価値をつけようとしている試みについて話したい。
AIのリアルタイム予測
プロ野球の開幕を3月26日に控えた20日、日本テレビ系プロ野球中継の新たな試みとして、イニング得点確率や作戦成功確率を予測するAIのデータをリアルタイムで確認できるようにすると発表した。
これはつまり、今まで球団や選手たちが使っていたデータをAIによって分析させ、視聴者への新たな付加価値として活用しようというものだ。
このシステムを開発したデータスタジアム株式会社によると、“攻撃中のイニングにおける得点確率や、ヒッティングや送りバントなどの様々な攻撃の作戦が成功する確率をAIがリアルタイムで算出し提示。イニング、得点、塁状況、アウトカウント、投手、打者など多くの要素により変動していく野球の醍醐味を表現できる“と話している。
凄く簡単に言えば、この状況なら攻撃側のチームが○○%の確率で得点できます、ということを、データとして見せようという話になる。
野球に限らずスポーツは数多くの要素を含んでおり、1プレーで状況が大きく変わってしまうことがざらに起こってしまう。その部分をAIによって数値化させようとしているのだ。
AIの仕様について
残念なことに、どういう作りでこのAIが作られているのかは情報が出ていない。予想になるが、各選手のこれまでの打率(どれだけヒットを打ったか)、や得点圏打率(ランナーが二塁以上にいるときにヒットを打つ打率)、相手投手との対戦成績、チーム状況など、他にもある様々な情報を加味してデータが算出されると思われる。
正直なところ、その選手の年齢による成績の低下や、調子など、データとして算出できないような部分も数多くあるだろうが、これは非常に面白い試みではないだろうか。
おわりに
AIでスポーツの試合結果を予想しようという試みは他でも行われている。
「SPAIA」と言うサイトではリアルタイムではないが、野球だけでなくサッカーのJリーグの試合結果もAIが予想している。(その的中率はまだ高くないが)
コロナ禍で緊急事態宣言が解除されたとはいえ、未だ大手を切って外出できない状況の今、AIが算出するデータを見ながらテレビやパソコンでスポーツ観戦を楽しむ、そんな過ごし方もありなのではないだろうか。